発信者情報開示(1)

最三判平成22年4月13日民集64巻3号758頁

事案の概要

原告:発達障害児のための学校である「A学園」の学園長

被告:KDDI

平成18年9月以降,「2ちゃんねる」の「A学園Part2」と題する本件スレッドにおいて,原告とA学園の活動に関して,様々な立場からの書き込みがされた。本件スレッドにおいて上記のような書き込みが続く中で,平成19年1月16日午後5時ころ,被告の提供するインターネット接続サービスを利用して,「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」との書き込み(以下「本件書き込み」という。)がされた。

原告は,被告に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基いて,本件書き込みをした発信者情報の開示を請求した。しかし,被告は,本件書き込みによって原告の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないため,原告の請求を拒絶した。そのため,原告は,発信者情報開示及び損害賠償を求めて提訴した。

争点

原告の権利が侵害されたことが明らかであるか否か

東京高裁の判断

原審である東京高裁は,次のように判断した。なお,【】内は引用者注である。

対象となる人を特定することができる状況でその人を「気違い」であると指摘することは,社会生活上許される限度を超えてその相手方の権利(名誉感情)を侵害するものであり,このことは,特別の専門的知識がなくとも一般の社会常識に照らして容易に判断することができるものであるから,本件書き込みがこのような判断基準に照らして被上告人【=原告】の権利を侵害するものであることは,本件スレッドの他の書き込みの内容等を検討するまでもなく本件書き込みそれ自体から明らかである。

最高裁の判断

これに対して,最高裁は,次のように判断した。なお,【】内は引用者注である。

本件書き込みは,その文言からすると,本件スレッドにおける議論はまともなものであって,異常な行動をしているのはどのように判断しても被上告人【=原告】であるとの意見ないし感想を,異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し,記述したものと解される。このような記述は,「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人【=原告】の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人【=原告】の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人【=原告】の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。そして,本件書き込み中,被上告人【=原告】を侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,被上告人の権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けた上告人【=被告】にとって,必ずしも容易なものではないといわなければならない。