DVについての裁判例(1)

配偶者暴力に関する保護命令に対する抗告事件

東京高決平成14年3月29日判タ1141号267頁

事案の概要

妻:フィリピン出身のホステス
夫:日本人

妻はホステスとして働いていたときに,客として来店していた夫と知り合い,平成3年3月28日に婚姻した。なお,夫婦の間には婚姻の前に生まれた長女がいる。

夫婦は子どもとともに数年間フィリピン・アメリカに滞在していた。夫は,フィリピンで妻に暴行を 振るって傷害を負わせたことがある。

夫婦らは平成8年に帰国し,夫婦共働きであった。夫婦は,平成13年1月13日夜,自宅において夫の給与額等をめぐって口論となり,夫は妻を蹴ったりするなどの暴力を振るい,外傷性頚部症候群及び全身打撲の傷害を負った。治療のために数回通院した。このあとも,妻は夫と長女とともに同居していた。

夫婦は,平成14年1月2日夜,自宅において妻の行動及び夫の給与額等をめぐって口論となり,夫が妻の手をつかんで外に引っ張りだした。翌日,妻は警察署に相談し,夫から「殴られ,蹴る」という暴力を振るわれたと述べたが,怪我の症状は特になかった。また,妻は翌2月18日まで病院に受信に行くことはなかった。

妻は,1月2日から夫と長女とは別居している。夫は,妻の居場所を探すなどの行動はとっていない。

妻は,平成14年1月23日,離婚調停を申し立てた。

裁判所の判断

裁判所は次のように述べたうえで,

保護命令は,被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律10条)に発令されることになるが,この保護命令に違反した場合には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同法29条)に処せられることに照らすと,上記発令要件については、単に将来暴力を振るうおそれがあるというだけでは足りず,従前配偶者が暴力を振るった頻度,暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情から判断して,配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い場合をいうと解するのが相当である。

本件では,夫が妻に対して更に暴力を振るって相手方の生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高くないとした。