不貞に関する裁判例

最二昭判44年9月26日民集23巻9号1727頁

争点

男性に妻がいると知って肉体関係を持った女性が,男性に対して貞操などの侵害を理由に慰謝料を請求できるか?

事案の概要

Xは,昭和15年生れの女性で高校卒業後の昭和35年3月から在日米軍で事務員として勤務することになった。Xは職場の上司でアメリカ人の男性Yと知り合い,間もなく通勤のためYから自動車による送り迎えを受けることになり,また映画館,ナイトクラブ等に連れていつてもらうほどの仲になった。

Yには当時妻子があったが,それ以前から長らく妻とは不仲で,同居はしているものの寝室を共にしない状態であった。YはXと交際するうちに性的快楽の対象をXに求めるようになった。

Yは、昭和35年5月ころ,Xに対し,そのような家庭の状態を告げるとともに,Xが19才で異性に接した体験がなく,思慮不十分であるのにつけこみ,その気はないのに,Xに妻と別れてXと結婚する旨の嘘を述べた。Xは,Yの夫婦仲はYの言うとおりであって,Yはいずれは離婚して自分と結婚してくれるものと誤信した。昭和35年5月2日から昭和36年9月ころまでの間10数回にわたり,Xと肉体関係を結んだ。

ところが、Yは、昭和36年7月ころ,Xから妊娠したことを知らされると,同年9月ころからXと会うのを避けるようになり,Xが昭和37年1月1日に男の子を出産した際,その費用の相当部分を支払ったほか,Xとの交際を絶った。

YとXとの間に肉体関係があった当時,Yの妻には離婚の意思がなく,Yが近い将来妻と離婚できる状況にはなかった。しかし,Xは,このことに気付かず,むしろいずれは自分と結婚してくれるものと期待して,Yに身を委ねたところ,その結婚への期待を裏切られ,Yの子の養育を一身に荷わねばならなくなった。

Yは、かつて昭和34年11月から別の女性と肉体関係を結び,昭和35年から昭和36年にかけてXと肉体関係を結んだほか,その後もさらに別の女性とも肉体関係を結んでいた。

最高裁の判断

女性が,情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知っていたとしても,その一事によって,女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰藉料請求が,民法708条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に解すべきではない。すなわち,女性が,その情交関係を結んだ動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において,男性側の情交関係を結んだ動機その詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し,右情交関係を誘起した責任が主として男性にあり,女性の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し,男性の側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには,女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰藉料請求は許容されるべきであり,このように解しても民法708条に示された法の精神に反するものではないというべきである。

このように述べたうえで,

  • Yには,Xと結婚する意思がなく,Xの体目的であったこと
  • 若く思慮が足りないXにつけこみ,騙したこと
  • XはYと結婚できると期待し,Yと肉体関係を結んだこと
  • YはXが妊娠するまで約1年半にわたりXと肉体関係が継続していたことなど

XとYの肉体関係を誘起した責任が主としてYにあり,Yの違法性は著しく大きいと評価し,YのXに対する慰謝料支払義務を認めた。