レズビアンカップルが精子提供で妊娠・出産した場合の親権について

1 はじめに

映画『キッズ・オールライト』(2010年アメリカ)で描かれているように,外国では精子提供を受けて,子どもをもうけるレズビアンカップルは珍しくありません。外国だけではなく,日本においても,有名なレズビアンカップルがメディアで妊活をしているということを明らかにしています。

レズビアンカップルが精子提供で子どもを妊娠し,出産した場合,その子どもの親権はどうなるか? この問題は,これから子どもをもうけたいと考えているレズビアンカップルだけではなく,現に子どもをもうけたレズビアンカップルにも必要な情報だと思うので,わかりやすく説明したいと思います。

この記事は,あくまでも,レズビアンカップルが精子提供を受けて,カップルで子どもを産み育てる場合のみを想定しています。この記事では,実際に子どもを妊娠・出産したレズビアンカップルの一方を単に「実母」として,精子提供をした男性を「精子提供者」,妊娠・出産していないレズビアンカップルの一方を「パートナー」,実母から生まれた子どもを「子」とします。

なお,セクシュアリティを問わずに,女性が精子提供を受けて,1人で子どもを産み育てる場合は,「選択的シングルマザーの法的問題」のページをご覧ください。

2 実母

まず,精子提供を受けて妊娠し,無事出産した場合,実母と子は,血縁上も親子であると同時に,当然に法律上も親子ということになります。このことは法律にはなにも定められていません。その理由は,それは当然のことすぎて,定める必要がないと考えられたからでしょう。

したがって,実母が独身のときに妊娠・出産した場合,子の親権者は,実母だけです。

3 精子提供者

(1) 法律上の父子関係

次に,血縁上は親子である精子提供者について説明します。そもそも,現在の法律において,血縁上の父子であったとしても,そのことからただちに法律上も親子になるわけではありません。このことは基本的な知識なので,しっかり頭に入れておいてください。

それでは,精子提供者が血縁上だけではなく,法的にも父になるのは,どのような場合でしょうか。ひとつめは,実母と精子提供者が結婚しているときに,子を妊娠したときです。この場合は,「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」(民法772条1項)という法律の定めによって,精子提供者と子の法的な親子関係が発生します。

ふたつめは,精子提供者が子を認知することです。認知をすることで,生まれた時から法律上の親子関係が発生します(民法784条)。

認知には,認知届を出す「任意認知」と,子が血縁上の父に対して認知することを求める訴えを起こす「強制認知」があります。任意認知の場合は,子が未成年であればいつでも自由にできます。子や実母の承諾も必要なければ,血縁上の父子関係の証明も必要ありません。なお,任意認知をしないという取り決めを実母と精子提供者としたとしても,認知は子どもにとって法律上の利益を与える一方で,不利益はないと考えられるので,このような取り決めは子の福祉に反するため無効となると思います。つまり,このような取り決めがあっても,精子提供者は子が未成年であればいつでも自由に認知することはできるでしょう。

他方,強制認知の場合は,精子提供者が生きていれば,いつでも訴えを起こすことはできます。しかし,血縁上の父子関係は,子の方で証明しなければなりません。この証明はDNA鑑定を利用すれば容易ですが,精子提供者がDNA鑑定を拒めば無理やりすることはできません。ですから,実母は,精子提供を受ける場合には,将来的に強制認知をすることがあるかもしれないので,そのときに備えて,血縁上の父子関係を証明できる証拠を手元に用意しておくべきでしょう。

(2) 親権

精子提供者が法律上も親子となる2つの場合について,簡単に説明しました。それでは,それぞれについて,精子提供者がどのような場合に親権者になれるかについて説明します。

実母と精子提供者が結婚しているときに妊娠した場合,生まれたときに離婚していれば,実母だけが親権者になります(民法819条3項本文)。ただし,実母と精子提供者の話し合いによって,精子提供者を単独の親権者にすることはできます(民法819条3項ただし書)。もっとも,レズビアンカップルが精子提供を受けて子を産み育てる場合に,精子提供者を単独の親権者とすることを実母が認めることは現実的ではありません。ですので,どうしても,精子提供者が親権者になりたければ,家庭裁判所に精子提供者の方が実母より親権者として相応しいと認めてもらわなければなりません(民法819条5項)。なお,実母と精子提供者が子が生まれたときも結婚していれば,実母と精子提供者は子の共同親権者になります(民法818条1項)。

認知の場合も同じで,実母と精子提供者の話し合いで,精子提供者を単独の親権者とすることはできます(民法819条4項)。

以上の説明から,精子提供者が親権者になるのは容易なことではありません。家庭裁判所にレズビアンカップルに対する偏見があったり,実母の養育に虐待などの問題があったりししない限り,精子提供者が親権者になれないでしょう。

したがって,レズビアンカップル側で,精子提供者と親権争いを避けるためには,知り合いの男性に精子提供をしてもらうのではなく,精子バンクなどを利用して匿名の男性から精子提供を受けるべきでしょう。他方,精子提供者としては,親権者として子どもを養育することは簡単には認められないため,知り合いのレズビアンカップルに精子提供をするときは,子とどう関わっていくかをしっかり考える必要があると思います。

4 パートナー

最後に,レズビアンカップルで,子どもを産んでいないパートナーの親権について説明します。現在,日本では同性婚が認められていないため,子とパートナーは血縁上も法律上も赤の他人です。

しかし,子とパートナーが養子縁組をすれば,パートナーが単独の親権者になります(民法818条2項)。なお,子が未成年の場合,養子縁組には家庭裁判所の許可が必要です(民法798条)。もっとも,病気や子と離れて暮らさなければならないなどで養育ができない事情がない限り,実母がパートナーに親権を渡すとは考えにくいので,養子縁組というのは現実的な方法ではないと思います。

レズビアンカップルの関係が良好であれば,パートナーは育ての母として子育てに関与できるので,子育てについて意見の対立がない限り,親権がなくても大きな問題はないと思います。しかし,仲が悪くなり,カップルを解消する際に,いくらパートナーが子に対して愛情を注ぎ,子と離れたくないと思っても,法律上は赤の他人なので,カップルの解消には子との別れが伴うでしょう。もっとも,子が15歳以上であれば,子自身がパートナーと養子縁組をすることはできます。ただし,すでに説明したように,子が未成年であれば,家庭裁判所の許可が必要ですので,その許可がでるかはケース・バイ・ケースだと思います。

今後,同性婚が認められて,親子関係についても,同性カップルも異性カップルと同等に扱われることになれば,パートナーは実母と同等の立場になれると思われます。しかし,現状では,パートナーは,法的には非常に不安定で弱い立場にあります。

以上,簡単にですが,レズビアンカップルが精子提供を受けて,子どもを産み育てる場合の親権の問題を説明しました。なお,この記事では,子が未成年であるときに,単独親権者である実母が亡くなった場合の親権などの問題については触れていません。この点については,別の機会にまとめたいと思います。